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空飛ぶお医者様番外編 |
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衝撃の花束 |
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紫陽花 |
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目を閉じていてもわかる朝の日差し。
元気で健康的。
それが取り柄の医者、サジュはその誉め言葉に恥じないくらいに寝起き良く、ぱちりと目を開いた。
「んー……、休みだなぁ」
パジャマを着たまま、サジュは窓際に立って外を眺めた。
彼が住んでいるのはグラーツ中心街の小路にある、三階建ての三階。
部屋は一人暮らしの割には広い、それ以外は特徴の無い部屋。
変わっている所と言えば、屋上に彼の相棒である飛竜がいることくらいか。
(今日は天気もいいし……)
頭の中で一日の計画を立てると、彼はボタンを外してベッドの背にかけてあったTシャツを掴んで頭から被る。
床には本、書きかけの論文、大量の反省文の原稿用紙が散らかっていた。
脱いだパジャマをベッドの上に放り投げて、ジーンズに足を通すとサジュは窓を全開にして身を乗り出した。
「よ、オヤジさん。朝飯そっちのほうで食ってもいいか?」
サジュはよく通る明るい声で、向かいの一階にある花屋の店主に話しかけた。
独身一人暮らしの彼。
しかも日々忙しいということもあって、料理を作ることは滅多に無かった。
頭上から青年に声を掛けられると、頭頂部が少々薄くなった花屋の店主がサジュのいる窓を見上げて、彼に負けないくらい明るい声で言い返す。
「もちろんおいで。ルーアンが今、飯の準備をしてるから話しとくよ」
ルーアンとは店主の娘の名前だ。
肩までの長さの栗毛で、エプロン姿で店を走り回る姿が可愛い女性だった。
「いつもご馳走様。今から急いで向かうわ」
サジュは扉を開けて鍵もかけずに階段を下りていく。
どうせ泥棒が入っても大したものはないし、貴重品が何処にあるか判らないくらいに部屋は荒れ放題だ。
戸締りに無頓着なのはサジュ自身、そのことを良く理解している現れなのかもしれない。
「おはようございます。サジュ先生はいつも元気ですね」
アパートの隅の階段を長い足を利用して、一段飛ばしで駆け下りて路地に出るとサジュの耳にすぐ聞き覚えのある女性の声が掠めていった。
「ルーアン。もしかして俺のお出迎え?」
「はい。お待ちしておりました」
花屋の看板娘の返答に、サジュは心の中でガッツポーズを作った。
長身、愛嬌があり幼さが残るがすっきりした顔立ち、爽やかな雰囲気。
これだけ好印象な条件をもちながらサジュは何故か恋人が出来ない。
本人も結構「休日には俺だってデートしたい」 とか思っているのだが。
ルーアンに好感を持っているサジュは、彼女と一緒に空の散歩でも楽しもうかと朝、予定を立てていた。
看板娘にデートの誘いを申し込んだ男は数多い。
彼女は朝早くから店で動き回り、客には売って居る花に負けないくらいの笑顔を振りまく女性だったから。
(好きって聞かれたらきっと好きって答える。でも恋愛って聞かれるとなぁ……)
ルーアンへの思いはマドンナに対する憧れに近い。
住居も近く、よく朝挨拶する仲ではあってはそれ以上の進展は無い。
サジュ・モービッツ、意外と恋愛には奥手な男なのだろうか。
いやただ単に仕事に追われて、今恋人を作るどころではない。
理由はそれだけだったりする。
「…………サジュ先生?」
「え?」
自分の恋愛についてアレやコレや考えていたサジュは、ルーアンの声で現実の世界に戻った。
どうやらぽかーんと視線を中にさ迷わせていたようで、彼女の声は心配気味だった。
「私、そろそろ出かけなくてはならないんです。テーブルの上にご飯は用意してあります、食器は洗わなくていいですから」
「……え?」
ルーアンの声に再びサジュは聞き返す。
今度の「え?」には、違う意味合いがこもっていたのはきっと彼女には分からないだろう。
ガラガラと崩れ落ちる休日の予定。
自分でもうまくいくとは思っていなかったが、ここまで早く崩れ去るとは。
しかし決して落ち込んだ表情を見せないのがサジュの取り柄でいい所。
にっこりと目が線になるほど細めて、明るい笑顔を勤めて作る。
「そっか。どこに行くかは知らないけど、怪我しないようにな?」
ありふれた言葉にルーアンはそれでは、とサジュに頭を下げてスカートの裾をひるがえして店を出た。
彼女が軽い足取りで向かった先は、数十メートルほど先に立っていたサジュの知らない男性であった。
それでも若い医者は彼女を見送るように手を振りつづけた。
顔は笑っているが、背中は泣いていると気づく者はいない。
サジュ・モービッツ二十三歳独身、何気に……今男気を見せていた。
(……ま、こんな日もあるか)
気を取り直すようにサジュは大きく深呼吸をした。
関係は向かいの建物に住む青年と花屋の娘。
それで時々食事を貰った程度。
それだけ。
本当にそれ以上でもそれ以下でもなく……。
厳しい現実を目の当たりにしてサジュはがっくりと肩を落とした。
たくましいが今、哀愁漂っている背中に近づいてくる新たな存在には、当然気付くはずもない。
すっと指は細いくせに大きめの手がサジュの肩に伸びて、振り向かせようと叩き始める。
「サジュ? そうか、お前の家はこの付近だったか」
「図体が大きいんだから無駄に突っ立ってないの。通行の邪魔よ?」
次に聞こえてきたのは低く、何故か言うことを全て聞いてしまいそうなほど迫力のあるドスの効いた、聞き覚えの声。
それと何時も愛情や優しさの欠片が全く無い言葉。
背後に振り向くと、見覚えのある二人組みが立っていた。
赤毛で黒スーツに身を固めた細身の男と、濃い金髪でオレンジの瞳が生き生きしている女。
先輩医者のライコスと上司であるリーチェの姿だった。
「せ、先輩。花屋でそのカッコはどうかと。似合ってますけど」
サングラスに隠された目つきは鋭い。
視線だけで射殺せるような黒い瞳の威圧感はグラス越しからでも伝わってくる。
ライコス自身は全くそのことを自覚していないのだが。
(まぁ先輩のカッコはいつも通りだ。ソレより問題は……だ)
「人の顔。じろじろ見ないで言いたいことを言ったら?」
触り心地の良さそうなサテン生地のノースリーブワンピースにハイヒール。
似合っている、確かに服を自分の魅力として吸収するくらいリーチェは似合っていた。
だが……
(い、いつもとギャップがあり過ぎじゃないかっ!? 女に見えるぞアイツが)
いくらなんでも失礼だ。
リーチェは美人といっても良いだろう。
颯爽と背筋を伸ばして歩く姿や、白衣の姿が凛々しくて似合っている。
しかしサジュは今まで女性として見たことは無かった。
いつもコキ使われ、毒舌を浴びせられているせいだろう。
サジュは不器用な男で口走りがちだが、流石にココは心で留めておくだけにした。
口に出せば間違いなく彼は命を落とす。
しかし何か言わねば。
サジュ・モービッツ、今少しばかり人生の危機を迎えていた。
「リーチェ……、女は化けるってホントなんだな」
彼なりに気を利かせた言葉だが、言ったことは思っていることとほぼ同じ意味だ。
しかしリーチェは上機嫌のようで、口端を上げて笑みを作った。
「ま、私も時にはこういう格好をする時があるのよ。覚えときなさい?」
「俺と一緒の休日は“常に”じゃないのか?」
「ええっ!? せ、先輩……」
リーチェの微笑よりも何よりも、サジュはライコスの一言に驚き声を上げた。
花屋に訪れた男女二人組み。
これはどう考えても恋人同士では。
(先輩とリーチェが、二人とも恋とかと無縁そうな代表格なのに。
いや、似たもの同士で意外と上手くいって……でも信じられねぇ。
第一あの先輩がどうやって口説いたんだっ!?)
受けた衝撃が大きすぎたのか、サジュはぽかんと空を見つめた。
頭の中には色々質問したいことがグルグルと回っているのに声は出てこない。
遠い目をしている後輩のことはお構いなしに、ライコスは花屋の店主に何やら注文していた。
出来た花束を渡す相手は、当然リーチェ。
誰がどう見てもこれは恋人だ。
見方によっては怖く強そうなボディーガードと守られている美女だろう。
実際はライコスは非力、リーチェは救命士としての優れた運動能力があるので立場は逆だが。
「あなた、意外と花を選ぶセンスってあるわよね」
「色に対する人間の心理も学んだからな。色彩については心得がある」
「で、今日のテーマは何だったのかしら?」
普通だ。普通のカップルだ。
大人の会話をしている。
石と化した後輩サジュについては無視のようである。
会話を続けていたライコスは腕を組んで考え込み口を開いた。
「ああ。全部薬にすれば劇薬になるシリーズだ」
「………さっき色彩で選択とか言わなかった?」
リーチェは複雑そうに眉間にシワを寄せたまま花束を見つめた。
せめてもっと気の聞いた言葉が出ないものか。
この先輩あってサジュがあるのかもしれない。
<
「お前も見れば判るだろ? これが全部毒草なのは」
「それは判るけど。あんまり現実として受け取りたくなかったから確認したまでよ」
「折角の休みなんだからそう怒るな。あ、サジュ。明日は忙しくなるからな」
「は、はいっ。先輩」
ライコスに話し掛けられてようやく石になったサジュは元に戻った。
それじゃあな、と二人に手を振られてまだ放心状態のままで手を振り返す。
視線の先にはリーチェがプレゼントとして貰った花が、風で揺れていた。
FIN
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長さ |
衝撃の花束 |
紫陽花 |
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番外編紹介: |
いつも忙しく動き回る医者サジュ。 貴重な休日なのだがやっぱり不運は相変わらずなようで……。 ほのぼの、多少恋愛有。 |
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注意事項: |
年齢制限なし |
(本編連載中) |
(本編注意事項なし) |
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本編: |
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