線 香 花 火
冬の空気は凄く冷たいけど澄んでいる。
景色が遠くまではっきり見えて夜空が綺麗で。
星を見るならば冬が1番、と言う人もいるだろう?
だから実は花火に適した季節だと僕は思っているんだ。
花火をしようと駄々をこね、子供のように君の袖をっ張る僕。
“しょうがないね” と言いながら肩を竦めたけれど承知してくれた君。
一緒に公園まで持って歩いたバケツ。
家で汲んだ水、その表面は既に薄い氷の膜が出来ていた。
「ごめん。これしか無かった」
我侭を言ったくせに僕が持ってきたのは一束の線香花火だけ。
それでも良いよ、と笑いながら君はライターをロウソクの芯に近付けた。
風の無い冬の夜で輝く炎は力強くて、消えそうな素振りなんて見せない。
君はしゃがみ込んだまま楽しそうに眺めている。
その時僕は、ただの冷たいそよ風にも消えてしまいそうな、小さなオレンジ色の輝きを眺めていた。
君も僕も判っていたんだ。
僕等はこの真冬の線香花火の状態だってね。
「これから会えなくなるね」
君は手持ち無沙汰にチケットをひらひらと宙で遊ばせながら、迷いの無い瞳を僕に向ける。
真面目腐って頷いた僕だけど視線は遠く空の向こう。
持っているチケットは同じ道ではなく別々の道。
旅立ちのゲートは隣のゲート同士。
青、緑、紫。
寒色系の明りで点されたそれぞれの未来へと続く道には
……あの時のオレンジ色の光は存在していなかった。
「全て無かったことにしよう?」
そんなセリフが僕の口腔内で暴れまわっている。
本当は君を引きとめたい。
でも時計を逆戻ししたって同じ事。
夢までは変えることは出来ないだろうし。
もし君と僕が一緒の夢を見ていれば良かったのに。
でも僕と違う世界が見えている君のそんな所に惹かれたんだから、言い訳は絶対に言わない。
君を困らせることにもなるからね。
せめて最後くらいはお互い笑顔で見送りたいでしょ?
……心がどんなに辛いって叫んでいてもね。
忘れない。
最初に君とキスした素敵な日。
そして今、交わしたキスも。
僕のほうへと振り向くことなく未来へと続く門を潜り抜けていった。
足も動かなかったし、声も出なかった。
きっと叫んで追いかけてしまうから。
その金縛りを解いてくれたのは、僕の旅立ちを促すアナウンスの声。
鋼鉄の翼を広げて飛び立つ鳥。
其処に乗っている僕は地上を見下ろす。
君との思い出の場所は小さくなっていく。
厚い雲の下になって見えなくなっていく。
小さな冬の花火の最後に炎を吹き消した風。
どうせなら今ここで厚い雲も吹き飛ばしてくれれば良かったのに。
今でも冬に線香花火をやるんだよ?
でもあの時みたいに小さな火の玉は燃えてくれない。
暖かい色は雪の白さに吸い込まれるし、風ですぐにロウソクの炎は消える。
それでも続けているんだよ。
君は………まだ風から何かを守っているのかな?
“サンタの眉毛”
という企画で書いたお話です。
SkoopOnSomebody の名曲ですが……季節はずれ過ぎですかね?
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